ホツマツタヱ偽書説考



 (最新見直し2011.9.18日)

 「ウィキペディアのホツマツタヱ」その他を参照する。


 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここで、遠景から見たホツマツタヱ考をしておく。「ウィキペディアホツマツタヱ」その他を参照する。

 2009.3.19日 れんだいこ拝


【偽書説考】
 「ことばをめぐるひとりごと」の次の一文を転載しておく。
 不滅の日本語トンデモ本


 以前に『人麻呂の暗号』という、でたらめの語源の本を批判しました。しかし、この種の「日本語トンデモ本」は、いくらでもあって、種が尽きないようです。書店に行くと、某氏の『日本語(やまとことば)解読法』なる本が並んでいました。数ヵ月前に出版されたものらしい。どれどれ、と手に取ってみると、これが例によって「日本語トンデモ本」なのですね。「雲」とか「悲しい」とかいう、日本語固有の語(大和ことば)の語源を、すべて漢字音で説明しようとする書物です。たとえば「くも」の場合、「雲」の古い漢字音である「〓」(イゥン、というような音でしょう)が、ああなってこう変化して、「くも」に変わった、というのです。たしかに、大和ことばに見えるものでも、たどって行くと漢字音に由来するらしいものはあります。しかし、1冊まるまるこれで解釈されると、ちょっと面くらう。そうならそうでいいんだけど、前提がすべて「こうであるはずだ」という推論だけなので、説得力がありません。なのに、「国語学者は誤っている」などと書いてあるから、ちょっとムッとしてしまいます。

 こういう本はいかにも怪しい(し、あまり面白くない)ので、わざわざ買う人も少ないかもしれません。ところが、たとえばこの手の本を大新聞社が出していたりすると、読者もつい信用してしまうおそれがあります。現に、松本善之助著『ホツマツタヘ』『続 ホツマツタヘ』という本が毎日新聞社から出ています。これは簡単にいうと、「漢字が伝来する以前、日本にも文字があった」ということを書いている本です。こういう説は古くからあり、江戸時代には「ヒフミ(日文)」とか「アナイチ(天名地鎮)」とかいう名のいろいろな「神代文字」が主張されたようです。「ホツマ(秀真)」もその一つ。しかし、残念ながら、これらの「神代文字」は偽作です。今のところ、漢字の伝来以前に日本で文字が使われたという証拠はありません。「日本にも古くから文字があってほしかった」という当時の人々の気持ちは分かるし、神代文字が偽作され、広まった経緯を研究することは大切だと思う。でも、そういう文字が古代に本当にあったと信じ込んでしまうのは軽率だ。松本氏は、まさにそういう誤った姿勢で本を書いています。困るのは、それを毎日新聞社が大々的に(?)バックアップして、2冊もの単行本を出していることです。僕は広島の紀伊國屋書店で、これらの本を集めた「神代文字コーナー」があるのを見て仰天しました。そういうわけで、僕にとって毎日新聞社は、『人麻呂の暗号』を出している新潮社や、『もう一つの万葉集』を出している文藝春秋と同じく、ちょっと信用がおけないのです。

▼関連文章=「ホツマふたたび

追記 世田谷区の押野さんからお知らせいただいたところによれば、2000.10.21の「産経新聞」朝刊生活欄「いまが盛り」で、「先人のない道切り開く、古代日本固有の文字文化研究」との見出しで「ホツマ研究家・松本善之助さん(81)」が紹介されていたそうです。産経新聞の記者にはもう少し勉強してほしいところです。(2000.10.21)
 ホツマふたたび


ホツマ  神代の文字と称する「ホツマ」を使って書かれた「ホツマツタエ」(ホツマツタヘ、もしくはホツマツタヱと書く人も)なる古文書について、いくつかの関連本が出ているという話を以前に書きました。こういう神代文字は偽作であり、大手の出版社が大々的に関連本を出すのは困る、と批判したのでした。しかし、その後も、この種の本はやっぱり「不滅」でありまして、版を重ねているようです。松本善之助著『ホツマツタヘ』を読んだ方から、僕の批判は「あんまりな書き方なのではないか」との抗議をいただきました。漢字伝来以前に文字が使われていなかったという証拠はあるか、一概に「ホツマ」を否定することはできないのではないか、とのご主旨です。そこで、改めて、もう少し詳しく神代文字の矛盾について書いてみようと思います。

 漢字伝来以前に日本に文字がなかったと決めつけることは、もちろんできないでしょう。「証拠はない」という以上のことは言えません。山田孝雄は『国語史 文字篇』(刀江書院、1937)p.57で

……わが国の太古にも文字の萌芽といはうか、又は原始的の文字といふやうなものが無かつたと断言するには躊躇せねばならぬと思ふ。

と書いています。萌芽はあったかもしれない。しかし、それに続けて、

漢字渡来以前に社会共通の文字が在つたといふことは信ぜられぬし、又その社会共通の公の文字が在つたのを廃止して漢字を用ゐさせられたなどといふことは到底信ぜられぬことであると断定する。

と喝破しています。

 「漢字以前に文字がなかったとは断言できない」ということと、「だから神代文字はあったのだ、それがホツマだ!」と主張することとの間には、ずいぶん飛躍があります。これはちょうど、宇宙人の存在にたとえることができます。広い宇宙のどこかに、地球人に似た生物がいないとは断定できないでしょう。だからといって、「私は宇宙人に会ってきた、それはこういう姿をしている!」と写真を見せられても、ちょっと信じる気になれないのと似たようなことです。「ホツマ」を見ると、明らかに後世に作られた文字だと判断できる根拠があります。日本語の歴史を学んだ人ならば、「この説は危ないな」と分かるはずです。要点をあげてみましょう。

◆1◆「ホツマ」の文字は、母音記号と子音記号とを組み合わせて作られているようです。こういった作り方は、朝鮮のハングルによく似ています。
 ハングルは15世紀になってから世宗皇帝が広めた人工の文字ですが、非常に合理的なので、今日にいたるまでずっと使われています。
 「このような文字が日本にもあればよかったのに」と思った日本人が、ハングルをまねて神代文字を偽作した可能性があると思います。
 同じく神代文字とされる「日文(ヒフミ)」をみると、文字の形までハングルにそっくりです。「ホツマ」は、形こそハングルには似ていませんが、発想が同じです。

◆2◆「ホツマ」のあらわす音韻体系が新しすぎます。
 奈良時代以前の日本語の音は、今より多かったと考えられます。たとえば、「日」も「火」も、現代語ではどちらとも「ヒ」と発音しますが、大昔には、それぞれ少し異なる発音であったことが分かっています。ちょうど、昔は「イ」と「ヰ」とで発音が違っていたのが、今ではどちらも「イ」と発音しているのと似ています。少なくとも、「エ・キ・ヒ・ミ・ケ・ヘ・メ・コ・ソ・ト・ノ・モ・ヨ・ロ」の音は、奈良時代以前には2通りに発音し分けられていました。
 ところが、「ホツマ」を見ると、これらの音を表す字が1種類ずつしかありません。2種類の音が混同されて1種類になった時代以降に偽作されたためと考えられます。

◆3◆ 「ハワ・イヒヰ・ウフ・エヘヱ・オホヲ」などの仮名遣いに誤りが多く見られます。
 戦前の本を見ると「おわします」を「おはします」と書いてあったりしますが、これは平安時代ごろの発音に基づいています。昔は、発音する通りに書けば「おはします」となり、間違えて「おわします」になるはずはなかったのです。
 それが、時代とともに発音がルーズになって、「ハワ・イヒヰ・ウフ・エヘヱ・オホヲ」などの発音が混同されるようになりました。そこで、「おはします」を「おわします」と書く可能性が生まれました。
 「ホツマ」で書かれた文章を見ると、これらの仮名がずいぶん間違っており、
 「アスカノミヤニ ヲワシマス」
 などとなっています。あやしいとしか言いようがありません。

◆4◆ 並び方の特徴が新しい「五十音図」が出てきます。
 「ホツマツタエ」の「天之部・一」と称する章の初めのほうに「アカハナマ イキヒニミウク フヌムエケ ヘネメオコホノ モトロソヨ ヲテレセヱツル スユンチリ シヰタラサヤワ」という文句があるのですが、1行文字数を調節すると

xx
  アカハナマ
  イキヒニミ
  ウクフヌム
  エケヘネメ
  オコホノモ
  トロソヨヲ
  テレセヱ
  ツルスユン
  チリシヰ
  タラサヤワ

となり、列ごとに読むと「アイウエオ、カキクケコ」という五十音図になります。ところが、五十音図は平安時代中期ごろに現れたもので、漢字伝来以前にはなかったものです。このことについて松本善之助氏は、逆に、「五十音図が平安朝中期以降にできたという今日の定説は覆ることになる」と述べています(『続 ホツマツタヘ』毎日新聞社)。しかし、それはおかしいでしょう。平安中期の五十音図は、今と違って「キコカケク シソサセス」などとなっており、段順・行順がまちまちでした。それがだんだん整備され、今のようになったのは鎌倉時代以降のこと。つまり「アイウエオ」の順に並んでいる五十音図は新しいのです。付け加えれば、五十音図に「ン」が入っているのも新しさを感じさせます。

 そのほか、語彙や文法の面からも、「ホツマツタエ」がそれほど古くない書物だいうことが推測されます。結局「ホツマツタエ」は、「古事記」「日本書紀」などの古典を下敷きにして、神道関係者が書いた偽書であると想像されます。これを肯定する本を書店で見かけても、お買い求めにならない方がいいでしょう。

▼関連文章=「不滅の日本語トンデモ本
















(私論.私見)