手術適齢考


【手術適齢考】
 近年、医療技術や機器の進歩により、高齢者でも手術をするケースが増えている。しかし、年を重ねるほど手術による体へのダメージも大きくなり、再手術で命を落とす者が多い。

 高齢者手術はそれ自体がリスクである。何歳までなら手術したほうがいいのか、何歳以上はやめたほうがいいのか、手術適齢を考える。人生の晩年で寝たきりにならないために、手術のボーダーラインを知っておきたい。
 高齢者のがん治療、とくに手術についてのガイドライン(規定)はなく医師の判断に任されている。70歳を超えると患者の状態の個人差が非常に大きくなる。手術に耐えうる体力がある人もいれば、そうではない人もいる。加えて、持病の有無や術後合併症、精神状態、家族のサポートなど、高齢者の手術はさまざまなことを考慮しなければならない。人は年を重ねるごとに体力も内臓機能も衰えていく。治療方法を判断する際、年齢が重要なファクター(判断基準)になる。

 患者が、手術に耐えられるかは外科医と麻酔科医が判定する。これは心肺機能の評価が中心になる。治療法や術後の生活については『キャンサーボード』といって、外科、内科、放射線科が集まり治療方針を決める。ただ、このキャンサーボードがうまく機能していない病院がある。

 高齢者の場合には「手術をしない」ことも立派な治療法である。高齢になるほど、がんの積極的な治療を差し控えるケ-スが多くなる。たとえば日本で一番死亡者が多い肺がんの場合、Ⅳ期になると85歳以上の患者の58%が手術も抗がん剤もしない「無治療」を選んでいる。がんの部位やステージ(進行度)によっても手術するか否かは大きく異なってくる。

 「全がん協」の最新調査によれば、肺がん手術を受けた人(全年齢)の5年生存率はⅠ期87%、Ⅱ期57%、Ⅲ期51%、Ⅳ期10%にまで下がる。早期の部分切除ならまだしも、片肺全摘出のような大掛かりな手術はリスクが大きく、75歳以降は「受けてはいけない」。「早期の肺がんに関しては、放射線治療が著しく進歩している。高齢で体力がないため、細胞検査すら耐えられない方もいるが、放射線治療の体への負担は軽くなっていて、治療成績も良好である。


 がんの部位でも異なる。がんのなかでも、とくに手術が難しく予後が悪いのが膵臓がん。膵臓がんの手術をした患者の5年生存率はⅠ期50%、Ⅱ期23%、Ⅲ期15%、Ⅳ期8%。死期を早める可能性も高いので60歳を超えての手術はしないほうがいい。

 食道がんの手術も食道を切除して、胃を持ち上げるため身体への負担が大きい。手術後の5年生存率はⅠ期85%、Ⅱ期64%、Ⅲ期40%、Ⅳ期34%。身体への負担が軽い内視鏡で切除できる早期ならまだしも、進行した食道がんの場合、70歳を超えての手術は見送ったほうが賢明だ。放射線と抗がん剤治療を組み合わせた治療のほうが負担も圧倒的に少ない。

 前立腺がんも60歳を超えれば手術する必要はない。そもそも前立腺
がんは進行が遅く、がんが悪化する前に寿命を迎えることがほとんど

で、別名「天寿がん」とも呼ばれている。手術ではなく放射線で根治が可能だ。

 胃がんは、他のがんに比べて手術できる年齢も高い。術後の5年生存率はⅠ期95%、Ⅱ期67%、Ⅲ期49%、Ⅳ期19%。「早期の胃がんなら90歳でも内視鏡で手術することが可能である。高齢者の場合、手術で胃を全摘するわけにはいかない。身体への負担が大きく術後に亡くなる可能性もある。

 胃がんと同じく大腸がんも、高齢者に対して積極的に手術されている。術後の5年生存率はⅠ期98%、Ⅱ期91%、Ⅲ期85%、Ⅳ期27%。ただし若い人のように根治を目指すのではなく、一時的に痛みを和らげる「姑息的治療」をする高齢者も多い。

 「消化器外科の領域である胃がん、大腸がん、肝臓がんなどは、『80
歳が手術の上限』と言われていた。今は『90歳』が仕切りになっている。高齢者の場合、隠れた併存疾患が多いので注意しなければならない。術前の心臓のチェックは心電図をとるだけだが、それだと、そのときに異常があるかどうかしかわからない。75歳以上の場合は、循環器内科に頼んで心臓エコー検査も行っている。そこで併存疾患が出てきた場合は、手術をやらないほうが賢明である。

 老化に伴い、高血圧や糖尿病など持病がある人も増えてくる。これも
手術に大きく関係してくる。高血圧で血液サラサラの薬(ワーファリン)を
飲んでいる場合は、手術の最中に出血が止まりにくくなるため、薬の服
用を一時中断しなければならない。結果、手術中にできた血栓が脳に飛んで、脳梗塞を発症し、寝たきりになる患者もいる。

 手術自体は乗り越えられても、高齢者の場合、術後の合併症で命
を落とすケースが後を絶たない。「食道がんや胃がんなど消化器系の手術の場合、術後は以前のように食べられなくなり、栄養状態が悪くなる。寝たきりのような状態になれば『床ずれ』を起こし、そこから細菌感染を起こし、敗血症になる危険性もある。大腸がんならイレウス(腸閉塞)。膵臓がんで、膵臓を切除すれば、血糖値を下げるインスリンが分泌されなくなるため、ほぼ間違いなく糖尿病を発症する。


 認知機能の衰えも手術の可否に大きく関与している。現在、認知症の患者数は、軽度の認知障害を合わせると約462万人('12年)いると推計されている、65歳以上の約4人に1人が認知症あるいはその予備軍ということになる。大腸(直腸)がんで肛門近くまで切除すれば『人工肛門』が必要となるが、認知症の場合、一人でこれを管理するのは相当困難である。また高齢者になると、嚥下機能(飲み込む力)も衰えている。80歳を超えて、自分の歯がほとんどない入れ歯の人や、食事の際によくむせる人が、胃がんや食道がんの手術をすると、術後に誤嚥性肺炎を起こして亡くなることもままある。

 近年、脳ドックの普及などによって、未破裂の脳動脈瘤が発見され
る機会が急増している。脳動脈瘤は、破裂するとくも膜下出血を起こす
リスクがあり、医師から手術をすすめられることもあるが、年間の破裂率は0.6%ほど。そのため70歳以上で動脈瘤が5mm以下の場合は、無理に手術する必要はない。患者の顔を見て、年齢より老化が進んでいる第一印象を持つ場合、オペをしないことがある。顔面の老化は脳の血管の老化と深く関係している。顔の見た目が実年齢より年老いて見える人は動脈硬化も進んでいる。

 心臓の病気はどうか。心臓手術では75歳以上が「ハイリスク」とクラス分けされている。「日本は90歳でもペースメーカーの手術をするが、海外では手術の対象にならない。心臓の手術は、正直、やってみないと正解がわからない。手術をしたことで寿命を延ばした人もいるし、合併症を起こして寝たきりになった患者もいる。これが心臓手術の悩ましいところで、確実に言えるのは80歳を超えて全身状態がよくないのに、無理やり手術で心臓を治そうとするのはやめたほうがいい。
 がんや脳、心臓のように直接命にかかわることはないが、日常生活
に支障をきたす関節痛は、高齢者にとって大きな問題だ。変形膝関節
症に対する人工関節置換手術は年間10万件近い数が行われているが、何歳までなら手術してもいいのか。「変形性膝関節症は初期、中期、末期と分けられるが、初期であれば95%は運動療法で解決する。中期で75%、末期で30%程度は運動療法で解決する。それでも効果がない人は、次の段階として抗炎症鎮痛剤を使う。膝に人工関節を入れる。人工関節手術は最終手段である。普通は75歳を超えると、気力も体力も自然と衰えてくるので、この辺がボーダーラインになってくる。とくに気力は重要で、術後が順調でも、辛いリハビリを諦めると元も子もない。最新の人工関節の耐久年数は20~30年と言われているが、人工関節と接触する軟骨が時間の経過とともに擦り減り、緩くなると痛みが再発することもある。術後、細菌が人工関節の部分で増殖して炎症を起こすこともある。菌がどこから入るかというと虫歯や胃潰瘍。菌が発生すると、再手術をして人工関節を抜いて、洗い流して滅菌しなければならない。70歳以上の人にとってこれはかなりの負担になる。
 高齢者手術をする上で忘れてはならないのが、家族や周りのサポート。術後、家族の支えがあるかどうかは、手術するかしないかの大きな判断材料となる。高齢で『独居』の方は、いくら体力があっても、サポートが十分でない場合は、より負担の少ない手術など術式を慎重に考えたほうがいい。昨今は、核家族化が進み、手術後の面倒を子供が見るのは現実的に難しくなっている。となれば配偶者が頼りになるが、同じく高齢化しているため、十分な世話ができるかは怪しい。高齢者とっては「手術そのものがリスク」であることを忘れてはならない。
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 ガンの手術については、若い人でも、ガンを取り除くための手術はリスキーである。何故ならガンは切ったりすると、増えるから。だからガンの手術はやらない方がいい。ただし、ガンが広がったりして重要な血管や神経や胆道を塞いだりしたら最低限の措置は必要になる。








(私論.私見)