所信表明演説考

 (最新見直し2007.10.2日)

 (れんだいこのショートメッセージ)
 ここに福田首相の所信表明演説をサイトアップするが、れんだいこが立ち帰るのは「田中角栄首相の国会に於ける所信表明演説」である。両者を比較すればどこがどう違うのかがはっきりするであろう。

 2007.10.2日 れんだいこ拝


【第168回国会における福田内閣総理大臣所信表明演説】
 2007.10.1日、福田首相が、第168回国会に於いて所信表明演説をした。これを転載しておく。(「第168回国会における福田内閣総理大臣所信表明演説http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2007/10/01syosin.html」)

 (はじめに)

 この度、私は、内閣総理大臣に任命されました。時代が大きな転換期を迎えている現在、政権を担うことの重大さを痛感し、身の引き締まる思いであります。日本の将来の発展と国民生活の安定を最優先に、自由民主党と公明党の連立政権の下、全力を傾けて、職責を果たしてまいります。 所信の一端を申し述べるに当たり、自由民主党総裁選挙の実施に伴い、国会運営にご迷惑をおかけしたことについて、議員各位、そして国民の皆様に対し、お詫び申し上げるとともに、今後、誠実な国会対応に努めてまいります。

 (国会運営について)

 先の参議院議員通常選挙の結果は、与野党が逆転するという、与党にとって大変厳しいものでありました。この状況下においては、衆議院と参議院で議決が異なる場合、国として新しい政策を進めていくことが困難になります。国民生活を守り、国家の利益を守ることこそ、政治の使命であり、私は、政権を預かる身として、野党の皆様と、重要な政策課題について、誠意をもって話し合いながら、国政を進めてまいりたいと思います。

 (政治と行政に対する信頼の回復)

 私は、政治と行政に対する国民の不信を率直に受け止めております。国民の皆様の信頼なくしては、どのような政策も必要な改革も実現することは不可能です。政治や行政に対する信頼を取り戻すことが、喫緊の課題です。

 国民の皆様から厳しいご批判を頂いた政治資金問題につきましては、与党において、政治資金の透明性をさらに高めるため、その改善に向けた考え方を取りまとめたところであります。今後、野党の皆様と十分にご議論させていただきたいと思います。まず閣僚から襟を正すべく、政治資金について、法に基づき厳正に管理を行い、問題を指摘された場合には説明責任を尽くすことができるようにするとともに、大臣規範に定められている事項の遵守はもとより、政治倫理にもとることなく、法令を遵守し、政治家の道義を守るよう、閣僚に徹底したところであります。特に、自らについては、厳しく戒めてまいります。

 全体の奉仕者である公務員についても、公の立場にあることを自覚し、職務を忠実に遂行し、自己に恥じることのないようにしなければなりません。行政に対する信頼を取り戻すため、特に、各府省の幹部職員が、それぞれの職務全般を掌握し、国民の立場に立った行政を、責任をもって遂行するよう、徹底してまいります。同時に、公務員一人ひとりが高いモラルを維持し、能力を高め、誇りをもって職務に専念できるような総合的な制度となるように、公務員制度改革を進めてまいります。

 行政の無駄や非効率を放置したままでは、次世代に負担を先送りするだけでなく、国民の皆様からの信頼を取り戻すことはできません。安定した成長を図るとともに、行政経費の絞り込み等により、2011年度には国と地方の基礎的財政収支の黒字化を確実に達成するなど、歳出・歳入一体改革をさらに進めます。21世紀にふさわしい、簡素で効率的な政府を作るため、行政改革を今後とも強力に推し進めます。

 歳出改革・行政改革を実施した上で、それでも対応しきれない社会保障や少子化などに伴う負担増に対しては、安定的な財源を確保し、将来世代への負担の先送りを行わないようにしなければなりません。今後、早急に、国民的な合意を目指して、本格的な議論を進め、消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく取り組んでまいります。

 (信頼できる社会保障制度の整備)

 年金、医療、介護、福祉といった社会保障制度は、国民の立場に立ったものでなければなりません。大変厳しい財政状況にはありますが、自立と共生の理念に基づき、将来にわたり持続可能で、お年寄りにとっても、若者にとっても、皆が安心できるものとなることが必要です。

 昨今の年金を巡る問題も国民の立場を軽視したことに大きな原因がありました。一人ひとりの年金記録が点検され、正しく年金が支払われることが重要であり、年金を受け取る方々の立場に立って、組織や運用の見直しなど、年金を巡る諸問題を着実に解決してまいります。

 年金制度はすべての国民に関することであり、お年寄りの生活の基盤となっているため、将来にわたり、年金が安定的に支払われていくよう、長期的な視野に立った制度設計が不可欠であります。国会における与野党の立場を超えた議論が再開され、透明で建設的な協議が行われるよう、お願いしたいと思います。

 地域にお住まいの方が必要な医療を受けられないとの不安をお持ちです。小児科や産婦人科などの医師不足の解消策や、救急患者の受入れを確実に行うためのシステム作りなど救急医療の充実を図ります。障害をお持ちの方やお年寄りなど、それぞれの方が置かれている状況に十分配慮しながら、高齢者医療制度のあり方についての検討を含め、きめ細かな対応に努めてまいります。

 (国民の安全・安心を重視する政治への転換)

 国民生活に大きな不安をもたらした耐震偽装問題の発生を受け、安全・安心な住生活への転換を図る法改正が行われました。成熟した先進国となった我が国においては、生産第一という思考から、国民の安全・安心が重視されなければならないという時代になったと認識すべきです。政治や行政のあり方のすべてを見直し、国民の皆様が日々、安全で安心して暮らせるよう、真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換し、悪徳商法の根絶に向けた制度の整備など、消費者保護のための行政機能の強化に取り組みます。

 毎日の食卓の安全・安心は、暮らしの基本です。消費者の立場に立った行政により、食品の安全・安心を守るため、正しい食品表示を徹底するとともに、輸入食品の監視体制を強化します。

 今なお頻発する災害による死者の発生は、国民生活に大きな不安をもたらしています。災害が発生した場合の「犠牲者ゼロ」を目指し、対策の充実に意を用いてまいります。

 (子育てを支える社会の実現)

 教育は、家庭にとって極めて関心の高い問題です。学校のみならず、家庭、地域、行政が一体となって、教育の再生に取り組んでまいります。

 信頼できる公教育を確立することが、まず必要です。授業時間の増加や教科書の充実などにより、子どもたちの学力を高めるとともに、体験活動や徳育にも力を入れ、自立と思いやりの精神を養います。先生が子どもたちと十分に向き合える時間を増やすとともに、メリハリのある教員給与体系の実現に取り組みます。

 女性も男性もすべての個人が、喜びや責任を分かち合い、個性や能力を発揮できる「男女共同参画社会」の実現に向け、取り組みます。十分な育児休業を取り、その後も仕事を継続できるようにするなど、安心して子どもを産み育てることのできる環境を整備します。長時間労働の是正に取り組むなど、社会全体で働き方の改革を進め、仕事と家庭生活の調和を推進します。

 (改革の継続と安定した成長)

 これまで我が国は、経済、社会全般にわたる構造改革に取り組んでまいりました。景気は回復し、雇用は拡大するなど、一定の成果が上がってきています。しかし、我が国はなお、本格的な人口減少社会の到来、少子高齢化に伴う社会保障費の増大や、内外経済の構造的な変化、地球環境問題などの難題に直面しています。これを乗り切り、より成熟した社会をつくっていくためには、時代に適合しなくなった制度や組織を改めるなど、日本の将来を見据えた改革を進めていかなければなりません。

 改革と安定した経済成長は、車の両輪であり、ともに進めてまいります。国内経済の環境変化に対応し、海外の経済との相互依存は今後とも高まります。内外投資の促進を図るとともに、成長著しいアジアの中にある強みを活かすアジア・ゲートウェイ構想を具体化し、観光立国の推進や金融の競争力強化に取り組みます。科学技術の発展に向け、戦略分野への集中的な投資を促進し、人材育成を充実するとともに、世界最先端を目指す知的財産戦略を推進します。

 (いわゆる格差問題への対応)

 構造改革を進める中で、格差といわれる様々な問題が生じています。私は、実態から決して目をそらさず、改革の方向性は変えずに、生じた問題には一つ一つきちんと処方箋を講じていくことに全力を注ぎます。

 地方は人口が減少し、その結果、学校、病院等、暮らしを支える施設の利用が不便になるなど、魅力が薄れ、さらに人口が減るという悪循環に陥っています。この構造を断ち切るには、それぞれの地方の状況に応じ、生活の維持や産業の活性化のためには何が必要かを考え、道筋をつけていかなければなりません。

 内閣に置かれた地域再生などの実施体制を統合し、地方の再生に向けた戦略を一元的に立案し、実行する体制をつくり、有機的、総合的に政策を実施していきます。国と地方が定期的に意見交換を行うなど、地方の皆様の声に真剣に耳を傾け、地域力再生機構の創設等、決してばら撒きではなく、政策に工夫を重ね、丁寧に対応する、地方再生への構造改革を進めてまいります。

 都会だけで国民生活が成り立つわけではありません。地方と都会がともに支え合う「共生」の考え方の下、地方が自ら考え、実行できる体制の整備に向け、地方自治体に対する一層の権限移譲を行うとともに、財政面からも地方が自立できるよう、地方税財政の改革に取り組みます。さらに、地方分権の総仕上げである道州制の実現に向け、検討を加速します。

 都市については、大災害時の安全確保など、安全・安心な街づくりを目指します。

 本日、郵政民営化がスタートしました。利用者の方に不便をおかけしないよう、着実に推進します。

 食料の安定供給は、今も将来も極めて重要なことであり、安全・安心な食を生み出す日本の農林水産業が、活力を持ち続けることが必要です。「攻めの農政」を基本に、担い手の頑張りに応える支援を行います。高齢者や小規模な農家も安心して農業に取り組める環境を作り上げるなど、農山漁村に明るさを取り戻します。
 我が国の経済成長の原動力である中小企業の多くが、景気回復の恩恵を受けられずにいます。下請取引の適正化や事業承継の円滑化、中小企業の生産性向上に向けた取組などを強力に推進し、大企業と中小企業の調和のとれた成長を図ります。

 若者の非正規雇用が増加してきた状況などを踏まえ、若者たちが自らの能力を活かし、安定した仕事に就いて、将来に希望をもって暮らせるよう、正規雇用への転換促進や職業能力の向上、労働条件の改善など、働く人を大切にする施策を進めてまいります。

 (これからの環境を考えた社会への転換)

 地球環境問題への取組は待ったなしです。 従来の、大量生産、大量消費を良しとする社会から決別し、つくったものを世代を超えて長持ちさせて大事に使う「持続可能社会」へと舵を切り替えていかなければなりません。住宅の寿命を延ばす「200年住宅」に向けた取組は、廃棄物を減量し、資源を節約し、国民の住宅に対する負担を軽減するという点で、持続可能社会の実現に向けた具体的な政策の第一歩です。地球環境に優しく、国民負担も軽減できる暮らしへの転換という発想を、あらゆる部門で展開すべきです。

 持続可能社会の実現に向け、京都議定書の目標を確実に達成するために全力を尽くすのはもちろんのこと、他国に対しても率先して、温暖化の防止に向けた働きかけを行っていかなければなりません。我が国の環境・エネルギー分野における技術は世界最高水準であり、環境問題の解決に向けて、世界をリードできる立場にあります。持続可能社会という新しい経済社会のあり方を世界に示していくためにも、来年開催される北海道洞爺湖サミットなどの場を通じ、「美しい星50」において示した、2050年までに温暖化ガスの排出量を半減させるとの目標を達成するため、主要な温暖化ガス排出国がすべて参加できる枠組みづくりに向け、具体的な取組を行ってまいります。

 (平和を生み出す外交)

 日米同盟の堅持と国際協調は、我が国外交の基本です。世界の平和は、国際社会が連帯して取り組まなければ実現できないものです。私は、激動する国際情勢の中で、今後の世界の行く末を見据え、我が国が国際社会の中でその国力にふさわしい責任を自覚し、国際的に信頼される国家となることを目指し、世界平和に貢献する外交を展開します。直面する喫緊の課題は、海上自衛隊のインド洋における支援活動の継続と、北朝鮮問題の早急な解決です。

 テロ特措法に基づく支援活動は、テロリストの拡散を防ぐための国際社会の一致した行動であり、海上輸送に資源の多くを依存する我が国の国益に資するもので、日本が国際社会において果たすべき責任でもあります。国連をはじめ国際社会から高く評価され、具体的な継続の要望も各国から頂いています。引き続きこうした活動を継続することの必要性を、国民や国会によく説明し、ご理解を頂くよう、全力を尽くします。

 朝鮮半島をめぐる問題の解決は、アジアの平和と安定に不可欠です。北朝鮮の非核化に向け、六者会合などの場を通じ、国際社会との連携を一層強化してまいります。拉致問題は重大な人権問題です。すべての拉致被害者の一刻も早い帰国を実現し、「不幸な過去」を清算して日朝国交正常化を図るべく、最大限の努力を行います。

 日米同盟は我が国外交の要であり、信頼関係の一層の強化に努めていきます。在日米軍の再編についても、抑止力の維持と負担軽減という考え方を踏まえ、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾けて、地域の振興に全力をあげて取り組みながら、着実に進めてまいります。

 情勢が悪化したミャンマーで、邦人の方が亡くなられたことは誠に遺憾です。成長著しいアジアですが、このような脆弱性も抱えています。日米同盟の強化とアジア外交の推進が共鳴し、すべてのアジア諸国において安定と成長が根付くよう、積極的アジア外交を進めます。

 中国とは、共通の戦略的利益に立脚した互恵関係を打ち立て、ともにアジアの平和と安定に貢献してまいります。韓国とも、未来志向の信頼関係を一層強化します。さらに、アセアン諸国など各国とも、経済連携など更なる関係強化に向けた取組を進めます。ロシアとは、領土問題の解決に向けて粘り強く取り組むとともに、両国の交流の発展に努めます。

 国際社会における一層の貢献を行えるよう、国連安保理改革と我が国の常任理事国入りを目指すとともに、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結に努めてまいります。「自立と共生」の理念に基づき、地球環境や貧困といった問題に対する支援を、自助努力を基本としながら、政府開発援助などの活用により積極的に進めてまいります。

( むすび ― 自立と共生の社会に向けて)

 我が国は、今、一時の景気の停滞から抜け出したとはいえ、時代の大きな変化の中で、経済、社会、国際情勢、自然環境など様々な面で、先の見えない、不確実な状況の中にあります。自分や家族、子どもの将来について、様々な不安を抱いておられる方も決して少なくないと思います。

 こうした不安定な状況の中でこそ、次世代に思いを致し、守るべきものは守り、育てるべきものは育て、引き継ぐべきものは引き継ぐという大きな方針を示し、舵取りを行っていくことが、私に課された責務であると考えます。

 将来のあるべき日本の姿を見据え、どのようにその姿に近づけるかを常に念頭に置きながら、国民の皆様の目線に立って、改革を続行してまいります。

 改革の続行に当たって、私は、「自立と共生」を基本に、政策を実行してまいりたいと思います。老いも若きも、大企業も中小企業も、そして都市も地方も、自助努力を基本としながらも、お互いに尊重し合い、支え、助け合うことが必要であるとの考えの下、温もりのある政治を行ってまいります。その先に、若者が明日に希望を持ち、お年寄りが安心できる、「希望と安心」の国があるものと私は信じます。激しい時代の潮流を、国民の皆様方とともに乗り越え、「明日への道を一歩一歩着実に歩んでいる」ということを実感していただけるよう、持てる力のすべてを傾けて、取り組んでまいる所存であります。

 国民の皆様、並びに議員各位のご理解とご協力を心からお願い申し上げます。


Re:れんだいこのカンテラ時評327 れんだいこ 2007/10/02
 【福田首相の所信表明演説考】

 2007.10.1日の「第168回国会における福田内閣総理大臣所信表明演説」(ttp://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2007/10/01syosin.html)に如何なる特徴をみてとるべきだろうか。田中角栄の「第70回国会に於ける角栄の初の所信表明演説」(ttp://www.marino.ne.jp/~rendaico/kakuei/enzetusyu_kokkai.htm)と比較してみたい。

 角栄は、冒頭次のように述べている。
 「戦後四半世紀を過ぎた今日、わが国には内外ともに多くの困難な課題が山積しております。しかし、これらの課題は、これまで多くの苦難を乗り越えてきたわれわれ日本人に解決できないはずはありません。私は、国民各位とともに、国民のすべてがあしたに希望をつなぐことができる社会を築くため、熟慮し、断行してまいる覚悟であります。

 七○年代の政治には、強力なリーダーシップが求められております。新しい時代には新しい政治が必要であります。政治家は、国民にテーマを示して具体的な目標を明らかにし、期限を示して政策の実現に全力を傾けるべきであります。政治は、国民すべてのものであります。民主政治は、一つ一つの政策がどんなにすぐれていても、国民各位の理解と支持がなければ、その政策効果をあげることはできません。私は、私の提案を国民のみなさんに問いかけると共に、広く皆さんの意見に耳を傾け、その中から政治の課題をくみ取り、内外の政策を果断に実行してまいります」。

 けだし名言ではなかろうか。角栄は、日共によって金権政治家と烙印され、その有能性が不当に落とし込められているが、冒頭の演説のくだりは角栄の政治哲学(思想)を如何なく述べている。まさにハト派の総帥としての本領力量をも示していると云えよう。角栄の場合、この原稿を自身が書き上げた形跡がある。福田の場合はどうだろうか。福田に限らずであるが、このところの首相演説の殆どが幾分かは自身の考えを指示しているのだろうが官僚作文に堕しており、首相は単に読み上げているだけではなかろうか。

 角栄の所信表明は、マクロ的な国際情勢論から入り、それを踏まえた外交として緊張緩和政策を推進、国際協調に尽力することを説いている。日米同盟を堅持しつつも他方で自律的に日中、日ソの関係改善に向かうことを指針させている。福田のそれが終章で国際情勢論及びそれを踏まえた外交を述べていることや、何事も盟主アメリカの顔色を窺いつつの外交路線と対照的である。

 但し、「このたび、政府が第四次防衛力整備計画を決定しましたのもこのためであります」と述べているくだりは、その後の防衛費の増大化につながったことや歯止めをかけなかった点で失政であったであろう。

 続いて、国内的な治世に触れ、次のように述べている。
 「われわれは、戦後の荒廃の中からみずからの力によって今日の国力の発展と繁栄を築き上げてまいりました。しかし、こうした繁栄の陰には、公害、過密と過疎、物価高、住宅難など解決を要する数多くの問題が生じております。一方、所得水準の上昇により国民が求めるものも高度かつ多様化し、特に人間性充実の欲求が高まってきております。これらの要請にこたえ、経済成長の成果を国民の福祉に役立てていく成長活用の経済政策を確立していくことが肝要であります」。

 
上記観点から、角栄は、日本列島改造論に基づく施策を打ち出している。これに基づき、国土の均衡的発展を主眼とする都市と農村の結合、工業と農業の均衡、高速交通・情報ネットワークの整備を指針させている。今日から思えば、実に的確な政策ではなかったか。不幸なことに、中曽根の登場から今日までの政策は、角栄のこの指針と逆のことばかりしてきている。ここに現下の日本政治の貧困があるのではなかろうか。

 続いて、この頃問題になりつつあった公害対策、物価の安定政策、社会保障政策、教育改革、国際収支対策、公共事業の必要を確認している。

 最後に次のように述べて結んでいる。

 「戦後四半世紀にわたりわが国は、平和憲法のもとに一貫して平和国家としてのあり方を堅持し、国際社会との協調融和の中で発展の道を求めてまいりました。私は、外においてはあらゆる国との平和維持に努力し、内にあっては国民福祉の向上に最善を尽くすことを政治の目標としてまいります。世界の国々からは一そう信頼され、国民の一人一人がこの国に生をうけたことを喜びとする国をつくり上げていくため、全力を傾けてまいります。あくまでも現実に立脚し、勇気をもって事に当たれば、理想の実現は可能であります。私は、政治責任を明らかにして決断と実行の政治を遂行する決意であります」。

 
この角栄の「決断と実行の政治遂行」所信表明演説に比して福田のそれはどの程度の水準であろうか。一見して、ちまちました総論であることが判明する。政治指針は網羅しているが、政治哲学、具体的施策に欠けた評論でしかないことが判明する。「はじめに」と「国会運営について」と「政治と行政に対する信頼の回復」のくだりは、言わずもがなの駄弁でしかない。

 続く「信頼できる社会保障制度の整備」も、結局問題点を指摘しただけで施策及びその理念を打ち出している訳ではない。続く「国民の安全・安心を重視する政治への転換」、「子育てを支える社会の実現」も、問題点を確認しているだけに過ぎない。続く「改革の継続と安定した成長」、「いわゆる格差問題への対応」、「これからの環境を考えた社会への転換」も、アドバルーンを揚げているだけに過ぎない。

 角栄の所信表明では冒頭であった国際情勢論及び外交論が福田のそれでは終章に登場し、「平和を生み出す外交」で次のように述べている。

 「日米同盟の堅持と国際協調は、我が国外交の基本です。世界の平和は、国際社会が連帯して取り組まなければ実現できないものです。私は、激動する国際情勢の中で、今後の世界の行く末を見据え、我が国が国際社会の中でその国力にふさわしい責任を自覚し、国際的に信頼される国家となることを目指し、世界平和に貢献する外交を展開します。直面する喫緊の課題は、海上自衛隊のインド洋における支援活動の継続と、北朝鮮問題の早急な解決です。

 テロ特措法に基づく支援活動は、テロリストの拡散を防ぐための国際社会の一致した行動であり、海上輸送に資源の多くを依存する我が国の国益に資するもので、日本が国際社会において果たすべき責任でもあります。国連をはじめ国際社会から高く評価され、具体的な継続の要望も各国から頂いています。引き続きこうした活動を継続することの必要性を、国民や国会によく説明し、ご理解を頂くよう、全力を尽くします」。

 
いわゆる「アメリカにノーと言えない日本造り」に向かうことを宣言していることになる。いわゆるシオニスタン政治である。この姿勢は次のように繰り返されている。
 「日米同盟は我が国外交の要であり、信頼関係の一層の強化に努めていきます。在日米軍の再編についても、抑止力の維持と負担軽減という考え方を踏まえ、沖縄など地元の切実な声によく耳を傾けて、地域の振興に全力をあげて取り組みながら、着実に進めてまいります」。

 福田はその後で、アジア外交を重視し、北朝鮮問題で云々、中国、韓国、アセアン諸国、ロシアとの関係を云々と述べているが、日米同盟のタガ嵌め下に於けるそれであり、自律した外交は望むべくもなかろう。


 
「むすび ― 自立と共生の社会に向けて」で、次のように述べている。
 「改革の続行に当たって、私は、『自立と共生』を基本に、政策を実行してまいりたいと思います。老いも若きも、大企業も中小企業も、そして都市も地方も、自助努力を基本としながらも、お互いに尊重し合い、支え、助け合うことが必要であるとの考えの下、温もりのある政治を行ってまいります。その先に、若者が明日に希望を持ち、お年寄りが安心できる、『希望と安心』の国があるものと私は信じます。激しい時代の潮流を、国民の皆様方とともに乗り越え、『明日への道を一歩一歩着実に歩んでいる』ということを実感していただけるよう、持てる力のすべてを傾けて、取り組んでまいる所存であります」。


 福田の「自立と共生論」はこれはこれで結構である。小泉政治、安倍政治とは違う味を出しており評価されるべきだろう。問題は、福田首相のこの言葉がどう実を結ぶのかにある。いいことは誰でもいえる。その為に何を為すべきかが問われている。見てきたように福田はシオニスタン政治を誓約しているが、その制限下で「自立と共生の社会に向けて」何事か為し得るだろうか。

 れんだいこのスタンスは、ハゲタカ身売り路線を構造改革と称してレイプ政治に明け暮れた小泉再登板を掣肘して登壇してきた福田政治の意義を認め、今後も小泉再登板を抑制する限りに於いて評価せんとしている。他の多くの評者が安倍政治も福田政治も無分別に批判して小泉再登板の呼び水を謀っている情況に於いて、批判しつつも注意深く見守ろうとしている。この判断が正しいかどうかはっきりするまで今しばらく時間がかかりそうだ。

 2007.10.2日 れんだいこ拝










(私論.私見)